Prasat Yai Ngao

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 ヤーイガオ(「ガ」は鼻濁音の「ガ」.以下,煩わしいので単に「ヤーイガオ」と表記)遺跡は,プンポーン遺跡の10kmほど北東,国道24号線から未舗装のわき道へ南に少し入ったところにある.ヤーイガオとは,「ガオ婆さん」という意味.村人たちはしばしば古いものを「〜婆さん」と名前を付けて呼ぶので,これも近くの村人がそう呼び慣わしているものであろう.「ガオ」には,タイ語で「寂しい」を意味する綴りが充ててある.「ガオ」は恐らくもともとはクメール語で,それにタイ語の表記を充てたに過ぎないのであろうが,雑草に覆われ,茂みの中にひっそりと立っている姿は,「寂しい」という語がぴったり来る.観光客などめったに訪れないものと見えて,遺跡を見にきた我々を,近所の子供たちが遠巻きに見物していた.

 東向きに煉瓦造りの塔が3棟並ぶ形式のものであるが,北側の塔は既に崩れ去ってしまっており,中央の塔もざっくりと中央が割れて崩れかけ,ワイヤーや角材で支えてある.煉瓦造りであるので,修復するのは難しいのであろう.完全にばらして積み直すしかなさそうだ.そうした場合修復と呼べるのか,再建なのか,模造なのか.

 しかし,崩れかけてはるものの,建物の表面は,ほとんど風化していない.ほんの数年前に建てたようにも見えるほどである.こうした煉瓦造りの塔を建てる際,昔は漆喰や接着剤の類を一切用いなかったという.煉瓦と煉瓦の間にはほとんど隙間がなく,非常に精巧に組み上げてある.南棟の裏面には,煉瓦の壁面に直接レリーフが施してある.

 今のところ応急手当しかされておらず,そのうち何かのきっかけで崩れ落ちるかもしれない.現に,「60年程前にここに立っていた塔が自重に耐えられず崩れ落ちて…」(Ban Prasat, A. Lamduan, C. Surin)という話を聞いたことがある.なんとも惜しまれる話ではあるが.


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