ラオトー
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 ラオトーとは,農家が造るどぶろくである.ラオ・サートーとも呼ばれる.タイは酒に関する統制が非常に厳しく,近年まで,自家消費目的であっても,自家醸造は厳しく取り締まられていた(*).日本では自家用のどぶろくぐらい造っても,あえて国税庁にケンカを売らない限り検挙にいたることはないが,タイの農村では近年まで警察の摘発がしばしばあったと聞く.

 原料はもち米.「醗酵種(phan mak)」と呼ばれるものを,蒸したもち米に混ぜ込み,3−4日置いて醗酵させる.そしてここから先,水を加えてさらに数日放置する方法と,水を加えて5分ほどで飲んでしまうという方法の2通りがある.前者は日本でもおなじみのどぶろくで,コップや椀などについで飲み,後者はストロー(植物の茎)を使って吸い飲みする.

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ラオスで見た「ウ」.ストローの先にビニールチューブがついていて化学実験のようだ.中は籾米.30000キープ(約150バーツ)也

 ストローを使うの伊達や酔狂ではない.上面に注ぎ足した水を,甕の底に溜まった米の粒の層を通して吸い込むのに必要なのである.醗酵した米の層を通る間に真水は酒となる.当然,ストローは甕の底に溜まった米の中に,しっかりと突き刺してやらねばならない.飲んで減った分だけどんどん水を注ぎ足していくが,当然徐々にアルコールが薄くなる.これを補うためにラオカーオやSPY(!)などを継ぎ足したりもするらしい.こうしたストローを使って飲む形のどぶろくを,特に「ウ」などと呼ぶ.

 いずれにせよ,味は日本のどぶろくと同じ.甘酸っぱく,ついつい飲みすぎる.

 日本でどぶろくを造る時には,米の澱粉を糖化させるための麹と,糖をアルコール発酵させるための酵母の2種類の菌を用いたように記憶しているが,タイでは一種類の種を最初に一度だけ入れる.(麹菌は籾に付着しているために添加する必要がないというのがその説明である.)この種は市場で入手できるが,種自体が禁制品であり,摘発を恐れ,顔見知りにのみ,ひそかに売っているという.(どぶろくの種に近いもので,アルコール発酵をあまり行わない種もあり,こちらは従来から製品・種ともに公認されていた.)

 どぶろくはいまだ非合法で,特に販売は今でも取り締まりの対象になっているが,その実,村内ではずっと以前から公然の秘密で売買されてきたのである.直径40cmくらいの丸い甕の中で造り,その甕のまま売ったり,ペットボトルに詰め替えて売ったりしている.ある村で製造販売している人は,「子供の学費のために」やっているのだという.目的が手段を正当化する功利主義的考え方がタイにはある.まあ,どぶろく造りは少なくとも「バープ」(仏道に対する罪)ではあるまい.

(*)タクシン内閣の下で法律が改定され,自家醸造は認められたが,販売は禁止されている―――という話を複数の人から聞いていたのだが,どうもまだ法律上は自家醸造も違法であるらしい.タイに良くある噂話のひとつ.ちなみに隣国ラオスは製造・販売とも完全に自由である.


■価格:70−100Baht(5−6リットルの甕)

■アルコール度:測ったことはないが,おそらく10%未満から20%近いものまで様々.密売品でアルコール度が低いものは,早く利益をあげるために早く出荷したものだそうだ.


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