ラオカーオ
lao_khao

 現在のタイを代表する酒といえば,このラオカーオをおいて他にない.田舎の冠婚葬祭,そして日常にも欠かせない庶民の酒である.

 ラオカーオは米を原料とした蒸留酒で,アルコール度は地域によって異なり,28度から40度のものまである.東北タイで売られているラオカーオは40度である.中部タイなどのラオカーオは度数が低いらしい.私は40度の物しか見たことがない.ラオカーオを飲む人々は40度という高い度数が誇りであるようで,この酒について語るときには決まって「ラオカーオは40度(シーシップ・ディグリー)の酒だ」(シーシップは40,ディグリーは英語"degree"由来)と自慢げに口にする.沖縄の泡盛のルーツと言われるが,現在タイで市販されているラオカーオには醸造アルコールが少なからず添加されている(※).

 無色透明だが,におい・味とも強烈なクセがある.グラスに少量注いだ酒を,息を止めて一気に飲み干す.そんなに悪い味もしないし,悪酔いもしにくい酒だが,祭礼などがあって休みなしに飲んで体調が悪化しているときには,においをかいだだけで横隔膜がピクピクと痙攣する.げろを吐きながらも飲んでいる人もいる.迎え酒といってもほどがある.

 味わって飲む酒というよりは,酔うための酒,もしくは薬としての酒で,この酒が愛好される理由は,飲み干したあとに胃袋,そして体がカッカと熱くなるからである.ラオカーオ愛好者の中には「熱くならないから」との理由でビールを好まない人も多い(特に農村部の中年以上).体が熱くなって力が出るというので,農作業の前や最中にも飲まれる.

 ラオカーオを飲むときには必ずひとつのコップを使っての回し飲みの形態をとり,飲み干されたコップを受け取って適量を注ぎ,次の人に渡す役割を果たす人が一人いる.なぜか最初の一杯を飲むのはこの注ぎ役と決まっている.

 もちろんストレートで飲まれることも多いが,クセが強い酒であるので,クセを和らげるための混ぜ物がいろいろ工夫されている.代表的なものは栄養ドリンク(特にM-150)やヤードーン.ヤードーンには固形の「11匹のトラ[sua11tua]」(ラオカーオに入れて撹拌すると,赤い色の物質が染み出す.)や,ラオカーオと半々くらいでカクテルする液体状ヤードーンの2種類があり,さらに液体状ヤードーンは,飲むと清涼感の得られるものを始め味の違うものが数種ある.いずれにせよ,ヤードーンを混ぜたラオカーオは赤い酒になる.バンコク・ファランポーン駅前のソムタム屋で売られている赤酒というのは,このヤードーンであろう.また,地方では安酒を飲ませる店としてヤードーン専門店がかなりある.トラ11匹を飲むと下半身が元気になるという話だが,私自身はそのような「症状」が出たことはない.この他,薬草やももんがの内臓を漬け込んだりと,ラオカーオは薬酒のベースとして広く用いられている.


(※)ラオトム(訳すと「煮酒」)と呼ばれる密造の蒸留酒のほうが泡盛に近い(というよりそのもの).田舎(特に北タイ)の商店で入手可能.


■価格:60-70Baht
 生産会社がCBTLと協定を結んでいると言う話で,Changが安いところではラオカーオが高く,Changが高いところではラオカーオが安いという関係にある.ただ,今後酒の販売の自由化が進むと思われ,どうなるかは分からない.

■アルコール度:28-40度

■生産会社:
 複数の会社が生産している.タイでは近年まで酒に対する統制が非常に強く,このラオカーオは生産会社・工場(東北タイではブリラム・コンケン・ノンカイなど)ごとに流通地域が決められているといった状況であった.流通のための箱も,統一規格のものであったように思う.最近,東北タイのメーカーが社名変更(分割?)したようだ.


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